セレクター紹介 - 北村 貴

セレクター紹介

株式会社グロッシー 代表取締役兼フードソムリエ代表

北村 貴 TAKA KITAMURA

フードプロデューサー。十勝と東京に拠点を置く、2地域居住実践者。東京で15年間、マーケティングの仕事を経てUターン。 2003年、実家である北村商店(浦幌町)の事業として北海道の逸品食材を扱うオンラインショップを開設。2007年、株式会社グロッシーを設立。食関係のマーケティングやプロモーション、コンサルティングを手がけ、料理家や生産者など食のプロが情報発信をする場としてのインターネットメディア「フードソムリエ」を運営している。情熱のある生産者がつくりだす、おいしいものを求めて、日本全国を飛び回る日々を送る。また、子どもの心と体の健康を守ることを目的とした味覚教育「MIIKU(味育)」に尽力する。

北村貴様インタビュー

創業115年の北村商店と黎明期のインターネット

いまはマーケターですが、新卒で入った会社は石油メーカーでした。
腰かけOLのつもりが、新人研修で仕事のおもしろさに目覚めてしまった・・・。でも、その会社では、短大卒の私にキャリアパスがありませんでした。そこで、当時女性が活躍していた人材派遣会社に転職。
ある日、「北村さんは社会に対して色々と不満が多いようだね。文句を言うくらいなら、それを解決する仕事をしなさい」と言われたことがありました。
問題解決する仕事はなにか?と考え、思い至ったのがマーケティングだったのです。
思い立った私はすぐさま転職をしました。24歳の時の事でした。

次の転機は26歳。パソコン通信との出会いでした。
これは優れたマーケティングツールになる、と直感的に思いました。でも、当時は「ネット=オタク」と言われる時代・・・、なかなか理解されることはありませんでした。
所属していた会社にも提案はしたのですが受け入れられず、1997年に同僚2人と一緒にインターネット専業マーケティング会社「株式会社マーケティングジャンクション」を立ち上げました。
ようやくインターネットが世間に広がりつつあったころのことで、いまIT業界を牽引している人たちが、大きな希望を抱きながら、まだ細々と仕事をしていた時代でした。

北海道に戻ってきたのは、37歳のときです。短大進学のために上京してから20年、東京での仕事に夢中になっている間、生まれ育った十勝・浦幌町は衰退の一途をたどっていました。子どものころは1万人いた人口が5千人まで減っていたのです。
ふるさとのために私はできることがあると、Uターンを決めました。

自分を少し過大評価するという、若いころにありがちなちょっとした勘違いで帰ってきましたが、地元に貢献したいという思いは強かったのです。
実家が地元でずっと商売をしているのです。
曾祖父が魚屋として始めた「北村商店」は、私が子どものころは、味噌・醤油・でんぷんの工場を経営して、林業もやっていました。父の代でガソリンスタンドや不動産も始めました。いまは林業がメインです。
今年で創業115年になりますが、地元の人たちに支えられてこそ、商売を続けられたわけですから、私も地元のために何かしたかったのです。
かつての北村商店では、小豆や雑穀も扱っていましたし、飯場(鉱山・土木・建築工事などの給食・宿泊施設)の人たちや杜氏さんも出入りしていました。
「食」を身近に感じる生活でした。2004年、いざ地元に戻ってきて、十勝の強みと自分のできることを考えたら、やはり「食」に行き当たったのです。それで、北海道の逸品食材を販売するオンラインショップを始めることにしました。(現在はオンラインショップは閉店)

北海道のチーズ工房めぐりと社長の一喝

北海道に戻ってきてまず、チーズ工房めぐりをしました。車をひたすら運転して、北海道全域をまわりました。
ほぼ全ての工房のチーズを買って食べて、自分の好きなものだけを選んで、オンラインショップで販売しました。
いまもそのスタイルは変わりません。
生産者からほかの生産者を紹介されたり、直接ご連絡をいただいたりすることが増えましたが、商品は自腹で購入すると決めています。
お預かりしてしまうと、この商品をどうにかして差し上げたいという気持ちが出てしまい、選定基準がぶれてしまう可能性がないとはいえないからです。

帯広市に本社をおく、食専門のマーケティング会社「株式会社グロッシー」を設立して、今年でちょうど10年になりますが最も感謝しているのは、「チーズ工房 白糠酪恵舎」の代表・井ノ口和良さんです。
実は、北海道に帰ってきたとき、2年で事業を軌道に乗せて、あとを誰かに任せて東京に戻るつもりでいました。
そんな私を井ノ口社長が一喝したのです。「2年しかやらない人間に自分の商品を預けられると思うのか」と。それで、ここに骨を埋める覚悟でやらねばと、思いを新たにして仕事に取り組みました。

井ノ口社長はすごいですよ。何がすごいって、資材などが高騰し他社が価格転嫁しても、簡単には値上げをしないんです。
誰もが食べられる値段のチーズを提供したいという思いがとても強い。それで、徹底したコスト管理をしているのです。

また、1つの事を成し遂げるためにはものすごく時間がかかること、技術的な裏付けが重要であり「偶然できた!」ではなく、確実に再現できることを形(商品化)にされます。まさに職人です。
そのうえ更に、意志を持って門をたたく人にその技術を惜しみなく教えていかれます。
ですから、イタリアタイプの流れをくむチーズだけを愚直に作っていらっしゃいます。カマンベールが流行っているからといってそれをつくることは絶対にしない。そういうものづくりをしている人です。


北村貴様インタビュー

見ているのは、生産者の熱量と目標

少し生意気ないい方ですが、私は、ものを選ぶとき、人を見ています。その時点で仮に商品が未熟だとしても、その人の心意気でどんどんよくなる可能性があると知っているからです。ものは変わるけれど、人の心は変わらない・・・だから、つくる人の価値観や思いを見るようにしています。
やはり、心意気のある人と一緒に仕事したいですもの。こちらも食べてはどんどんフィードバックさせていただきますし、商品がどんどんブラッシュアップしていくところとお取り引きしたいと思っています。

北海道には沢山の良い生産者がいます。例えば、新聞の鼎談をコーディネートしたご縁で、JA十勝清水町の「十勝若牛」を使った商品開発に携わりました。
十勝若牛というのは、約14か月の若齢で出荷されるホルスタイン種の赤身肉。通常より約6か月早く出荷されるため、さしがほとんど入りません。
育ち盛りの子どもたちにヘルシーなたんぱく質を食べやすい価格で提供したいという思いからスタートして、良質な赤身肉を目指して作られているのですが、飼料や飼育環境、技術検証、専門の獣医師、生産者の意識など、さまざまな熱い目標を持った人たちによって支えられています。

十勝若牛100%のソーセージもレバーパテも、牛肉特有の酸味や臭みがなく、その上で余分な混ぜ物がありませんから「肉を食べている」という実感が強くあります。ぜひ食べてほしいですね。
あと、熱量があるといえば本別町・前田農産の社長・前田茂雄さんも、おもしろい。地元の子どもたちのために、自分の小麦畑にミステリーサークルをつくってしまうような、北海道弁でいうと「わや(めちゃくちゃ)」な人です。
子どもたちが大きくなって町を出たとき、「あれが、おれのまち」と誇れるようにしたいんですって。
誰もやっていないことに挑戦したいという思いも強く、国産ポップコーンもつくっています。「ポップコーンができるまち」って楽しいだろうと始めたそうです。

幕別町・折笠農場の四代目・折笠健さんも、すごい情熱家。父親の代から減農薬や有機栽培に取り組んでいて、いまは自然栽培(無肥料無農薬)の作物も大きな面積で作っています。
原理原則を貫く人で、「安心安全ってなんだろう」というところからスタート。無肥料無農薬のりんご栽培に成功した、「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんに指導を受け、自然界のバランスを知るために昆虫学まで学んでいるといいます。

この人たちは、本当に熱量が高い。そういう魅力的な生産者が北海道にはまだまだたくさんいます。
みなさんに共通しているのは、「たいしたことはやっていませんよ」と言いながら、すごいことをやってのけているところ。
決して多くを語らず、これまでの苦労よりも、淡々と次に目指していることを話してくれます。これからも、そういう人たちのつくる良品を紹介していきたいです。

北村貴様インタビュー

良質な情報の発信と表現の場づくり

生産者のみなさんがつくったものを食べて、話を聞いて、共感し、それを良質な二次情報にして、多くの人に伝えていくのが、私の仕事です。
「北海道くらし百貨店」のセレクターとしての役割もそこだと思っています。

実は、私たちもいま、東京都内にキッチンスタジオをつくる準備をしています。
魅力的な生産者の表現の場にしたいのです。物販はメインではなく、弊社でネットワークされている全国350人の料理家のみなさんに料理で表現してもらい、プロモートしていきたいと思っています。

私の目標は「自分の意思で商品を選ぶ消費者が増える社会づくり」です。価格や一部の情報に踊らされるのではなく、たとえば、お給料が出たからちょっと贅沢して前から気になっていたこれを食べてみようとか、孫が来るから生産者のわかる安全なこの商品を用意しようとか…それぞれの状況に合わせて、自分の意思で品物を選ぶ機会が増えるきっかけを作っていきたいのです。
少しおおげさにいえば、消費とは日々の投票です。消費者にはその権利と責任が与えられています。
私たちが選ぶ商品で、頑張っている生産者を応援することができるのです。そう思うとワクワクしませんか?
私は、これからもみなさんをサポートする役割であり続けるために、日々努力していきたいと思います。